3こども未来学科とともに私は、平成16年、当初は非常勤講師として筑波研究学園専門学校幼児保育学科(現こども未来学科)に着任いたしました。それまで「音楽を教える」ことと「音楽を表現する」ことを自分のライフワークとし、演奏活動とともに子どもから大人まで、障がいをもつ方、留学生等、それぞれ価値観の違う多くの方々と関わって参りました。しかしながら皆が「音楽を学びたい」、「音楽が好き」な方々でした。ですから、「教える」というよりもむしろ一緒に音楽を楽しんできたといった方がよいかもしれません。そのような中、TIST幼児保育学科の学生たちにピアノを教授する機会をいただきました。初めてピアノを触る学生がほとんどで、中には資格を得るために否応なしの学生もおります。保育者養成校での教育の中で、実習や採用試験でのピアノや弾き歌いに焦点を当てすぎると、どうしても技術思考的な授業のカリキュラムとなりがちで、学生も苦手意識が強くなってしまいます。一方で学生たちは歌うことが大好きでした。合唱の時間になると、皆で創り上げるハーモニーを感じ合い、さらに良いものを追い求めようとするのです。ピアノの技術においては拙い学生が大半を占める中、歌うことの大好きな、音楽の大好きな学生たちが目の前に大勢いることを理解しました。保育者にとってのピアノの技術は、こどもたちの感性を豊かにする一つの手段でしかありません。こどもたちの感性を培うであろう学生自身にも感性を磨いてもらわなくてはなりません。私は、学生が保育の本質である「こころ」を理解、感受できるような音楽の授業の構築が必要であると強く感じたのです。演奏に関しての技術や知識のみ学んできた私は、研究テーマをぼんやりと掲げ、大学院で教育の観点からも音楽を研究するため学生に戻りました。そこで保育者養成を始めた人物でもあるフレーベルが、「音楽は精神力、生命力を培い、人間の教育や陶冶において必要なものである」と位置づけていたことを知るところになります。「音楽」が人間の教育に必要なものであるならば、将来保育を担う学生たちが欠けているもの=「学生の内面の表現力」を引き出し、感性を磨くためには「音楽を手段とした人間教育」が大きな力となり、保育者としての資質を上げることにつながると確信したのです。アクティブラーニングを取り入れた表現の授業を構築した後、グループ全体、クラス全体、学年全体で協力し合う姿勢が顕著になりました。すなわち学生のコミュニケーション能力、表現能力が高められていったのです。さらに卒業生の社会での活躍(本校での後進の指導を含む)へと繋がりました。それはTISTの校訓「自主」「協調」「創造」にも合致するところです。この教育観が精神論に終わることなく、具体的な形として現れたことは言うまでもありません。専門学校に求められていること専門学校は文字通り、専門的知識を深められる学校でなくてはなりません。同時に学生の出口が社会であることを忘れてはなりません。その意味では重責を担っています。関係機関の方々は皆、「頭でっかちの子」は要らないとおっしゃいます。このことは、どの分野にも共通していることだと考えています。歳を重ねると、経験でものを言ったり、経験でことを処理したりしがちです。しかしながらそこには前進はありません。現状に満足せず、常に謙虚に学び続けようとする教員が本校には多々おります。未来の建設に役立つ「人」を確実に育て上げる、育て上げようとする教員が学生の傍にいるはずです。そしてそれぞれの分野の先輩でもある教員と、後輩として真摯に先輩から学ぼうとする学生と、お互いの信頼関係の構築こそが「頭でっかちの子」をつくらない教育に繋がるのかもしれません。コロナ禍の中、学生にとって一番大切な「感動すること」、「表現すること」のできる場が奪われています。私たち教員はその中にあっても、感性を研ぎ澄まして学生と向き合い、教育活動を続けていく所存でおります。最後になりましたが、これまで力をお貸しくださった皆様に心より感謝申し上げるとともに、今後ともご指導の程、よろしくお願い申し上げます。社会「人」を育てるということ筑波研究学園専門学校 副校長 大森淳子
元のページ ../index.html#3